特許分析コラム

2026-09-17
vol14 生成AIは「速くする道具」で終わるのか

第3シリーズで考えること

生成AIの活用は、特許情報分析の現場にも広がりつつあります。
公報を要約する。必要な情報を抽出する。分類を支援する。報告書の下書きを作成する。
こうした個々の作業で生成AIを利用する場面は、これからさらに増えていくでしょう。

一方で、生成AIを「便利な機能」として単発で利用することと、分析業務の一連の流れに組み込んで活用することは、同じではありません。

  • 生成AIは、分析のどの工程で活用できるのか。
  • AIと人は、それぞれ何を担うのか。
  • どこまでAIに任せ、どこから人が判断するのか。
  • そして、分析担当者の役割はどのように変わっていくのか。

第3シリーズでは、個別のプロンプトや機能の紹介だけではなく、生成AIが加わることで、特許情報分析の進め方や分析担当者の仕事がどのように変わっていくのかを考えていきます。

第1回 生成AIは「速くする道具」で終わるのか

効率化だけでなく、分析を深めるための活用へ

生成AIを特許情報分析に使い始めたとき、まず実感しやすいのは「速さ」ではないでしょうか。

  • 数十件の公報の要点を短時間でまとめる。
  • 明細書から特定の情報を抜き出す。
  • 分類の候補を提示してもらう。
  • 説明文や報告書の下書きを作る。

これまで担当者が時間をかけて進めていた作業の一部を短縮できることは、生成AIの分かりやすいメリットです。

では、生成AIの価値は「作業を速くすること」だけなのでしょうか。

実際の分析業務で活用してみると、単なる時間短縮にとどまらない使い方も見えてきます。

「効率化」と「高度化」

生成AIの活用には、大きく分けて二つの方向があります。

一つは「効率化」です。
これまで人が行っていた仕事を、より速く、より多く進めるために生成AIを活用します。要約、情報抽出、分類支援、文章作成などは、その代表的な使い方です。

もう一つは「高度化」です。

  • これまでとは異なる観点を加える。
  • 複数の仮説を挙げる。
  • 次に検討すべき選択肢を増やす。
  • 見落としていた可能性に気づくきっかけを得る。

こちらは単に処理を速くするのではなく、分析担当者が考えるための材料や視点を増やす使い方です。

つまり、生成AIは「人が行っていた作業を代わりに処理する道具」としてだけでなく、「人がより深く考えるための支援役」として活用できる可能性があります。

パテントマップで考えてみる

たとえば、出願人別・技術区分別のパテントマップを作成したとします。

生成AIに、

「このマップの特徴をまとめてください」

と依頼すれば、上位出願人の傾向や、技術区分ごとの偏りなどを短時間で整理してもらうことができます。

これは、すでに図の中に表れている特徴を把握する作業を効率化する使い方です。

一方で、

「なぜ、この区分では他社の出願が少ないのか」
「この傾向を確かめるためには、次に何を確認するとよいか」

と問いかけると、生成AIに求める役割は変わります。

技術的な要因、各社の事業領域の違い、代替技術の存在など、複数の仮説や追加で確認すべき観点が提示されることがあります。

もちろん、生成AIが提示した仮説が正しいとは限りません。
しかし、そこから「では、この仮説を確かめるには何を調べればよいか」と次の分析につなげることができます。

こちらは、考えるための材料を増やし、分析を高度化する使い方といえるでしょう。

同じ生成AIに同じパテントマップを見せたとしても、「何をしてもらうのか」によって、得られるものは大きく変わります。

生成AIが入ると、分析業務の組み立て方も変わる

ここまでは、一つひとつの作業の中で生成AIをどのように活用するかという話でした。

しかし、調査、分類、分析、仮説形成、報告といった複数の工程で生成AIを利用するようになると、考えるべきことも変わってきます。

「この作業にAIを使うと便利か」という個別の判断だけではなく、

  • どの工程でAIを使うのか。
  • どこまでAIに任せるのか。
  • どの段階で人が確認するのか。
  • 最終的な判断を誰が担うのか。

といった、分析業務全体の組み立て方が重要になってきます。

さらに活用が進めば、その都度AIに質問して回答を得るだけではなく、一定の処理をAIに任せ、人がその結果を確認し、必要に応じて追加の指示や修正を行うという進め方も考えられます。

そうなると、生成AI活用は「便利な機能をどこで使うか」という話だけではありません。

AIと人、それぞれの得意なことを組み合わせながら、分析業務そのものをどのように設計するか。

そこまで含めて考えることが、これからの特許情報分析における生成AI活用の重要なテーマになっていくでしょう。

▶次回は

生成AIの回答は、自然で説得力があるように見えても、その内容が確かであるとは限りません。

特に特許情報分析では、「それらしい説明」と「根拠を確認できる事実」を区別することが重要です。

次回は、特許情報分析で生成AIを活用するうえで押さえておきたい、「もっともらしさ」と「確からしさ」について考えます。

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プロフィール

葉山 英樹

特許分析コンサルタント。 特許分析の専門家として企業の知財戦略を支援。
日東電工株式会社にて技術開発・経営企画に従事し、 特許情報分析を活用した新テーマ創出支援を推進。 その後、ワイズ特許サービスにて パテントマップ分析・競合分析支援を実施。 現在は株式会社ケミストリーキューブにて 調査分析コンサルティングおよび人材育成支援を行っている。 本コラムでは、特許分析のノウハウや 分析に関する最新情報を発信しています。

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