特許分析コラム

2026-07-22
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比較軸の設計

何と何を比べるかで、見えるものは変わる

マップを増やす前に

ある知財部門の方から、次のような相談を受けたことがあります。

「特許をさまざまな軸で分類し、事業部門ごとにマップを出したい。分析ツールで、比較軸や分類を効率よく設定する方法を教えてほしい」

こうした要望は珍しくありません。
しかし、ツールの使い方を説明する前に、必ず確認していることがあります。

「事業部門では、このマップを見て、次に何を検討するのでしょうか。」

返ってきた答えは、

「具体的な使い方は事業部門に任せています。まずは情報として見てもらいたい」

というものでした。

このような状況は、特許分析の現場でよく起こります。
マップ作成には力を入れていても、事業部門がどのように検討して役立ちそうかまで、想定できていません。
そのまま比較軸を増やせば、マップの数は増えていきます。

しかし、その結果、
  • マップが多すぎて見るのが大変
  • どこから見ればよいのか分からない
という状態になってしまうことがあります。
だからこそ、まず、

「この比較で、事業部門に何を考えてもらいたいのか」

を考えることが必要です。

比較軸は問いの置き方

前回のコラムでは、分析目的について考えました。
今回取り上げる「比較軸の設計」は、その目的を実現するために、「何と何を比べればよいのか」を考えることです。

よくある進め方として、特許情報分析ソフトに用意されている、
  • 企業別
  • 技術分類別
  • 時系列
といった項目から比較軸を選び始めることがあります。
しかし、本来、比較軸は選択肢の中から決めるものではありません。
最初に考えるべきなのは、

「何を知りたいのか」

という問いです。

競合の動きを知りたいのか。
最近動いている技術領域を知りたいのか。
自社が検討すべきテーマを探したいのか。

問いが変われば、比較する対象も変わります。
そして、そこから見える結果も変わります。
ここからは、比較軸の考え方を「個別判断」「総合判断」の2つのケースに分けて整理します。

個別判断における比較軸

表に示すように、個別判断とは、「1つの観点、または限られた情報をもとに行える判断」です。
たとえば、「重点的に見るべき企業を決めたい」という場合を考えます。

このときの問いは、

「どの企業が、どの技術領域に出願しているのか」

になります。

その場合、比較軸は、

企業 × 技術分類

となります。

比較の結果、A社は充電制御、B社は温度管理に出願が多いことが分かれば、自社が今後注視すべき企業や技術領域を考えるための入口になります。

このように、個別の問いに対しては、その判断に必要な比較軸を設定します。

表 個別判断の例

問い 比較軸の例 見えるもの
どの企業を重点的に見るか 企業 × 技術分類 企業ごとの出願領域の違い
どの技術領域の出願が増えているか 出願年 × 技術分類 直近で増えている領域

総合判断における比較軸

一方、総合判断とは、複数の観点や異なる種類の情報を組み合わせて行う判断です。
総合判断は、個別判断を複数組み合わせながら、最終的な判断材料を整理していく作業ともいえます。

たとえば、

「自社技術を活かして、電池制御に関する新しい開発テーマを検討できるか」

というような場合です。
このケースでは、「出願件数が増えている」というだけでは判断できません。
技術の動き、競合の動き、自社技術との接点、権利面の注意点、差別化の余地、用途の広がりといった複数の観点に分けて見る必要があります。

表 総合判断の例(電池制御の開発テーマ)

観点 必要な問い 比較軸の例
技術の動き 電池制御に関する出願は継続して増えているか 出願年 × 技術分類
競合の動き どの企業が、どの技術領域に注力しているか 企業 × 技術分類
自社との接点 自社技術を活かせそうな領域はどこか 自社技術 × 技術分類
権利面の注意点 どの企業が、どの技術領域で権利を持っているか 権利者 × 技術分類
差別化の余地 既存出願と異なる課題・解決手段を出せそうか 課題 × 解決手段
用途の広がり どの用途に展開されているか 用途 × 技術分類
注:表中の「技術分類」は、問いに合わせて粒度や切り口を変えます。
技術全体の動き、競合の違い、自社技術との接点を見る場合で、同じ分類になるとは限りません。

たとえば、権利リスクが高いことが分かれば、新規開発テーマとしての優先度は下がる可能性があります。
一方で、差別化できる余地が大きいことが分かれば、優先度を高める材料になります。
このように、問いごとに比較軸を分けて考えることで、1つの視点に偏らず、判断に必要な材料を積み上げることができます。

総合判断では、まず判断に必要な問いを分解し、その問いごとに比較軸を設計することが重要です。

分析の価値は、比較軸の多さで決まるわけではありません。
次の確認や判断に近づくために、どの比較軸を選べたか。
そこに、比較軸を考える意味があります。

比較軸を決める前に考えたいこと

次の分析で比較軸を決める前に、まず一度問い直してみてください。

何を知りたいのか?そのために、何と何を比べるのか」

比較する軸を変えれば、見えるものも変わります。
だからこそ、先に問いを置くことが重要です。

次回は

次回は、比較軸を設定した後、その比較に使う「分類」をどのように考えるかについて取り上げます。

注釈

本コラムでは「分析軸」ではなく、「何と何を比べるか」を明確にする「比較軸」という言葉を用いています。
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プロフィール

葉山 英樹

特許分析コンサルタント。 特許分析の専門家として企業の知財戦略を支援。
日東電工株式会社にて技術開発・経営企画に従事し、 特許情報分析を活用した新テーマ創出支援を推進。 その後、ワイズ特許サービスにて パテントマップ分析・競合分析支援を実施。 現在は株式会社ケミストリーキューブにて 調査分析コンサルティングおよび人材育成支援を行っている。 本コラムでは、特許分析のノウハウや 分析に関する最新情報を発信しています。

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