なぜ「A社は増えています」で止まるのか
報告の内容が「見えたこと」で止まるとき
前回は、マップを作る前に「探す順番」を考えておくことについて取り上げました。今回はその続きとして、マップを見た後の報告コメントが「多い」「少ない」「増えている」といった“見えた事実”で止まってしまわないための考え方を紹介します。
あるお客様の知財分析担当者から、パテントマップの報告について次のようなご相談をいただいたことがあります。
競合企業の出願動向を上司に報告したところ、
「小学生の朝顔の観察日記と同じだ。もっと考えなさい」
と言われてしまった、というのです。
報告書を拝見すると、複数の観点でマップは適切に作成されており、図表そのものに問題はありませんでした。
しかし、各マップに対する解釈は、
- 「A社は増えています」
- 「B社は減っています」
もちろん、事実を正確に述べることは重要です。
ただ、それだけで終わってしまうと、聞き手には次のように受け取られてしまう可能性があります。
「それは、見ればわかる」
「この結果を、次にどう使えばよいのか」
同じ「増えています」でも、読み方は変わる
「A社は増えています」というコメント自体は誤りではありません。グラフを正しく読めば、自然に導かれる基本的な記述です。
ただしそれはまだ、「見えたことの記録」にとどまっています。
分析結果を次の議論に活かすためには、その事実を「どう使うのか」という視点が必要になります。
たとえば、この分析が新規事業テーマの探索を目的としている場合、A社の増加は次のように解釈できます。
- 「他社がこの領域に関心を強めている可能性」
- 「A社がこの領域で権利形成を進めている可能性」
このように、同じ「増えています」という事実であっても、目的によって注目すべきポイントは変わります。
つまり、「A社は増えています」で思考が止まってしまうのは、グラフの読み取り能力の問題ではありません。
むしろ、最初に「この結果を何の議論に使うのか」が明確になっていないことが原因である場合が多いのです。
今回の半歩先「結果の使い道」をあらかじめ持つ
今回の半歩先は、「結果の使い道」をあらかじめ意識しておくことです。結果の使い道とは、分析結果を見た後に、何を議論したいのかという目的のことです。
- 新テーマ候補を探したいのか。
- 競合リスクを確認したいのか。
- 自社が追加調査すべき領域を絞りたいのか。
こうした目的が明確になっていると、同じマップでも注目点が変わります。
- どの分類で増えているのか。
- 直近でも増加が続いているのか。
- 自社との差はどこにあるのか。
- 出願内容を見ると、どの方向に向かっていそうか。
見る視点が変わることで、報告コメントも変わっていきます。
たとえば、
「A社はこの分類で出願が増えています。新テーマ探索の観点では、他社が関心を強めている領域として、出願内容を確認する価値があります」
というように、事実を次の議論につなげやすくなります。
ここで重要なのは、強い結論を急いで出すことではありません。
「A社はこの分野に本格参入しています」といった断定には、追加の根拠が必要です。
まずは、見えた事実をどの議論に使うと意味があるのかを考えることです。
次の分析では、一文だけ置く
次に分析を行う際は、マップを見る前に次の一文を置いてみてください。「この結果を、何の議論に使いたいのか」
たとえば、
「この増減を、新テーマ候補を探すための手がかりとして見る」
といった一文で構いません。
この一文があるだけで、分析時の視点が変わります。
その結果、「A社は増えています」というコメントも、単なる観察ではなく、次の議論につながる一言へと変わっていきます。
