特許分析コラム

2026-06-24
sample.html

観察と分析の違い

「増えています」で止まらないために

第2シリーズへ

第1シリーズでは、分析に入る前の基本姿勢として「半歩先」を取り上げました。
依頼された作業をそのまま進めるのではなく、その分析がどのような報告や議論につながるのかを、少し先に考えておく。

それが、図表で終わらない分析への出発点でした。
第2シリーズでは、この考え方を踏まえ、分析そのものの思考をもう一歩具体的に深めていきます。

たとえば、
  • 分析目的をどう置くか
  • 件数の増減をどのように解釈するか
  • 何と何を比較するか
  • 分類結果からどの差に注目するか
  • 見えてきた事実を次の確認事項や示唆にどうつなげるか。
こうした分析の進め方を、実務の場面で考えていきます。

初回は、「観察」と「分析」の違いを取り上げます。

観察コメントは、分析の出発点

例として、出願件数の推移を見て、次のように書くことがあります。

「A社の出願件数は直近3年で増えています。」

これは誤りではありません。
図表から読み取れる事実を正しく言語化した、典型的な観察コメントです。

増えているのか、減っているのか。
どの領域に偏りがあるのか。
そうした事実の把握がなければ、分析は始まりません。
一方で、この一文だけを受け取った側はどう感じるでしょうか。

観察自体が問題なのではありません。
観察は分析の出発点であり、不可欠なものです。
問題は、観察の段階で思考が止まってしまうことにあります。

「見えたこと」と「考えたこと」を分ける

ここで一度、コメントを書く前に次の三つに分けて整理してみます。
  • 見えたこと
  • 考えたこと
  • 次に確認すること
たとえば次のようになります。

見えたこと
A社の出願件数は直近3年で増えている。

考えたこと
A社がこの領域への関心を強めている可能性がある。

次に確認すること
どの分類で増えているのか。
自社の開発テーマと重なる領域か。
権利化状況や請求項の範囲はどうなっているか。

このように分けることで、「増えています」という観察から、次に何を見るべきかが明確になります。

分析は、強く言い切ることではない

ここで注意したいのは、分析とは、いきなり強い結論を出すことではないという点です。
たとえば件数が増えているという事実だけで、
「A社はこの領域を重視している」
と断定するのは、根拠としてはやや不十分な場合があります。

出願の継続性、権利化状況、請求項の範囲、技術内容などを見なければ、そこまでは判断しにくいからです。

一方で、判断材料が不十分だからといって「増えています」で止める必要もありません。
重要なのは、断定ではなく「次に確かめるための仮説」として扱うことです。

観察コメントから、分析コメントへ

この考え方を踏まえると、コメントは次のように変わります。

「A社の出願件数は直近3年で増加しており、特に制御関連の分類で目立ちます。自社の開発テーマと重なる領域であるため、今後の権利化状況や請求項の範囲を確認する必要があります。」

前半は観察、後半はその事実から導かれる考察と次の確認事項です。
「増えています」で終わる場合に比べ、次に取るべきアクションが明確になります。

もちろん、すぐに十分な結論が得られるとは限りません。
それでも分析コメントを意識して書き続けることで、仮説を組み立てる力は少しずつ鍛えられていきます。
なお、どのような確認が適切かは分析目的によって変わるため、この点は今後の回で扱います。

まず、三つに分けてみる

次の分析でコメントを書く前に、一度だけ立ち止まってみてください。
  • 見えたこと
  • 考えたこと
  • 次に確認すること
短い言葉で構いません。
この三つを分けることが、「増えています」で止まらず、次の確認事項へ進むための第一歩になります。

▶次回は

「件数が多いことは、何を意味するのか」を扱います。
件数は重要な手がかりですが、件数の多さだけで重要性を判断できるとは限りません。数字をどう読むかを、前提と合わせて考えていきます。
カテゴリ
タグ

プロフィール

葉山 英樹

特許分析コンサルタント。 特許分析の専門家として企業の知財戦略を支援。
日東電工株式会社にて技術開発・経営企画に従事し、 特許情報分析を活用した新テーマ創出支援を推進。 その後、ワイズ特許サービスにて パテントマップ分析・競合分析支援を実施。 現在は株式会社ケミストリーキューブにて 調査分析コンサルティングおよび人材育成支援を行っている。 本コラムでは、特許分析のノウハウや 分析に関する最新情報を発信しています。

新着記事

▲ TOP