分析目的の構造
「競合分析をする」で止めないために
以前、あるお客様から「特許分析結果が次の議論につながらない」というご相談を受けたことがあります。そこで、過去の分析報告書を20件ほど確認しました。
企業別件数、技術領域別マップ、時系列による増減など、分析結果そのものは丁寧に整理されていました。
しかし、複数の報告書に共通していた点がありました。
それは、分析目的の置き方です。
- 「競合分析を行う」
- 「競合動向を把握する」
- 「自社と他社の違いを見る」
しかし、「競合分析を行う」という表現だけでは、その結果を何の判断に使うのかまでは決まりません。
そのため、マップ作成後のコメントが、
- 「A社の出願が増えています」
- 「B社はこの領域が多いです」
- 「自社はこの領域で少ないです」
結果として、報告を受けた側も「では、この結果をもとに何を議論すればよいのか」が見えにくくなってしまいます。
分析目的はそのまま受け取らない
ここで、「依頼者に目的を十分確認すればよいのではないか」と考える方もいるかもしれません。もちろん、目的を確認することは重要です。
ただ、実務では、依頼者自身が最初から目的を明確に言語化できているとは限りません。
たとえば、
- 「競合の状況を見たい」
- 「他社との差を知りたい」
しかし、これらは分析の入口や手段を示しているだけで、その背景にある「何を判断したいのか」までは整理されていない場合があります。
だからこそ、分析担当者は依頼内容をそのまま目的として受け取るのではなく、「この分析は何を決めるためのものか」を考える必要があります。
たとえば、
- 次の研究開発テーマ候補を選ぶためなのか
- 重点的に確認すべき技術領域を決めるためなのか
「何を分析するか」ではなく、
「何を決めるために分析するか」から考えること。
これが、分析目的を設計する第一歩です。
目的を構造化して考える
分析目的を適切に設計するには、依頼内容をそのまま受け取るのではなく、その先にある判断から逆算して考えることが有効です。本稿では、分析目的を次の5つの階層に分けて整理します。
- 最終目的
- 意思決定項目
- 分析課題
- 分析項目
- 析軸・分類
「何を決めるために」
「何を確認し」
「どの切り口で見るのか」
をつなげて考えることです。
この考え方を、本稿では「目的の構造化」と呼びます。
なお、この5つは必ず上から順番に決めるものではありません。
依頼者が決めたいことを考える中で最終目的を見直すこともありますし、分析課題を整理した結果、必要な情報や見るべき切り口が変わることもあります。

事例で考える
たとえば、研究開発部門から「競合他社の出願動向を見たい」
という依頼を受けたとします。
これを「競合動向を把握する」と捉えるのではなく、
「研究開発テーマ候補の優先順位を決めるため」
と捉えると、分析の組み立ては変わります。
この場合、単にA社やB社の件数を見るだけでは足りません。
- どの用途に注力しているのか
- どの課題に取り組んでいるのか
- 他社との違いはどこにあるのか
- 自社テーマとの重なりはあるのか
5つの階層で整理すると、次のようになります。
最終目的:
研究開発テーマを選定する
意思決定項目:
開発テーマの優先順位を決める
分析課題:
深掘りすべき用途・課題領域を見つける
分析項目:
用途別件数、課題別増減、自社テーマとの重なり
分析軸・分類:
用途×出願人、課題×時系列、自社テーマ×用途
同じ「競合他社の出願動向を見たい」という依頼であっても、目的を構造化すると、見る情報や分類、マップの切り口が変わります。
変わるのは、分析結果の読み方だけではありません。
そもそも「何を見るべきか」という分析の視点そのものが変わるのです。
「競合分析」を言い換えてみる
次の分析で、「競合分析」のように手段に近い言葉で依頼を受けたときは、一度だけ問い直してみてください。「競合分析【手段】を通じて、何を決めるのか【目的】」
この問いが見えると、確認すべきポイントやマップの作り方は自然に変わっていきます。
分析を深める第一歩は、分析手法を選ぶことではなく、「その分析で何を決めたいのか」を明確にすることです。